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事業承継事例(2021年度版)

当センターにて支援した事業者様の事業承継・引継ぎ事例を紹介しています

日田市三芳小渕町1080-3 Tel.0973-22-4460

本野はきもの工業
製造の分業制が下駄づくりにおいて大半を占めているなか、独自性の追求と将来の可能性を見越して自社工房一本化を実現した日田下駄製造元『本野はきもの工業』。
伝統を守ってきた2代目と、3代目の新たなチャレンジ。親子承継で日田下駄の未来に期待値が上がる。
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若い2人のアイデアと行動力には 感心しているし、頼もしく思う。

親/本野廣明さん

「日田といえば下駄」だと認知されるまで挑戦していきたい。

子/本野雅幸さん

企業概要
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1948(昭和23)年に創業。現在は2代目夫婦と3代目夫婦の4人で伝統産業「日田下駄」の製造・販売を手掛けている。現代的な感覚と確かな技術、丁寧な対応でファンが増加中。

承継年表

1948年創業 2021年事業承継
▼2020年10月 『本野はきもの工業』の2代目・本野廣明さんが70歳になるのを機に事業の引き継ぎを計画。10年以上下駄づくりに従事し、技術を習得している次男の雅幸さんへの承継を家族内で話し合う。
▼2021年1月~2月 日田商工会議所を通じてセンターに相談。地区担当コーディネーターが事前ヒアリングで課題を掘り起こし、センター派遣の専門家による支援を実施。
▼2021年4月 廣明さんから雅幸さんへ事業を承継。

日田に息付く伝統産業 一時は廃業も視野に

 良質な杉の産地として知られるこの地に天保年間(1830〜1844年)より伝わる伝統産業「日田下駄」。機械化が進むとともに販路が全国に広がった明治後期以降、日田市は静岡、松永(広島)に並ぶ下駄の三大産地と称されるようになった。
 しかし、〝伝統〞が時代とともに廃れていくことは決して珍しくはない。着物は洋服に替わり、人々の足元は下駄や草履から靴やサンダルへ。祭りや冠婚葬祭などを除けば、下駄の出番はほとんどなくなっていった。
 製材や加工などを分業で製造する日田下駄は、隆盛を誇っていた時代には関連業者が市内に約200社あったが今では一桁台に減り、後継者問題も深刻。1948年に下駄専門のはきもの製造業として創業した『本野はきもの工業』2代目・本野廣明さん(70歳)と妻の保子さん(68歳)もまた、〝先が見えない〞不安を感じていたという。
「繁盛していた頃を知っている分、急激に減っていく実感は大きかったし、私たちの代で畳むつもりでした」と語る2人。
 だからこそ、次男の雅幸さん(40歳)の承継は「不安はあったけど、決意してくれたことが嬉しかった」と振り返る。
 手伝いながら技術を習得してキャリアはすでに10年以上の雅幸さん。最初から継ごうと決意していたわけではなかったが、「日田下駄のことをよく理解していなかったけど、お客さんに商品の特徴を説明したり、自分が履いた感想を伝えたりしているうちに、どんどんハマっていったような気がします(笑)」。

伝統を守りながら、 新しい感覚で飛躍を誓う

 具体的に承継の話が進み始めたのは2020年の秋。廣明さんが70歳になるのを機に日田商工会議所を通じてセンターに相談。専門家による支援によって承継に必要な手続きや引き継ぎ方、税務関連などの不安を解消し、2021年4月、雅幸さんが正式に代表に就任した。
 下駄を分業製造して業者に納品していた家業は、承継を機に自社工房での製造一本化と対面&オンライン販売という新たな戦略へ。下駄をイメージした住居に工房と店舗兼展示スペースをつくり、お客さんの声を皆で共有できる空間にこだわった。
「人と接することが好き」と語る雅幸さんは、若手アーティストが集まる場所に積極的に顔を出すことで、モノづくりへの刺激を受けると同時に人脈も広げていく。その中で生まれたのが、クラフト作家やネイリスト、スポーツブランドなどとコラボした、現代の新しい感覚と個性があふれ出る商品。それらは様々なテレビや雑誌、SNS等で次々と紹介されていく。原作が爆発的にヒットした映画の小道具や県内の高級旅館の部屋履きとして採用されるなど、その勢いはさらに加速しているようだ。
「きっと継ぐって言うんだろうなって思っていたから、全然驚かなかったです」とにこやかな妻の恵美さん(40歳)。「心配もしているけど、恵美さんがしっかり者だからきっと大丈夫かな」と保子さんは親心をのぞかせ、「どんなにブームになっても、地に足を付けて真摯に頑張ってほしい」と、廣明さんは次世代を担う息子夫婦へエールを送る。

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(奥)ネイリストとの共作「デコ下駄」、(右)バランス能力がUPする「一本歯下駄」、(左)かかとがハート型になる「みゅーる下駄」。

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2007 年4 月より自社で日田下駄の生産を始めた雅幸さん。手にしている「くりあげた」は、杉板と透過するアクリル樹脂をスリット状に並べて特殊な接着技法で連結させた「光彩杉」で成形したもの。

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下駄の形状に削る作業は、本来は木材の加工を生業とする木地職人の仕事。製造の分業制を自社生産に変え、よりオリジナリティを追求できるようになった。現在は主に廣明さんが担当している。

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保子さんと鼻緒すげの作業をする恵美さん(手前)はCAD データ作成や通販対応、事務作業などもこなす。毎日履いているからこそわかる下駄の心地良さや機能性などを伝えるのも女性陣の得意分野だ。

支援内容:手続き方法や承継時期の “見える化”を支援

 2代目の廣明さんが70歳になるのを機に、次男の雅幸さんに事業承継(代表者交代)を検討。日田商工会議所による事業承継診断を通じてセンターに相談した。事前のヒアリングで事業承継の際に行わなければならない手続き、資産・負債等の引き継ぎ方法、引き継ぎに際しての贈与税や相続税対策に不安を覚えていたことから、センター登録の税理士を派遣し、税務・法務面の課題と解決策を説明。同時にインボイス制度対応についても支援した。

支援効果:日田市の伝統産業のともしびを引き継ぐ

 適切なアドバイスの結果、事業の引き継ぎ方や手続き方法などの不安が解消。2021年4月に雅幸さんが3代目として事業を承継した。アイデアマンでもある若き担い手は県内のクラフト作家やネイリストとコラボし、現代のライフスタイルにあった新たな下駄を生み出している。あらゆるメディアでも紹介され、東京のデパートなどでの引き合いも激増。経営者となったこれからの活躍がさらに期待される。